【書評】『6TEEN』は酸いも甘いも経験した大人の心の琴線に触れてくる

こんばんは。

電車通勤時に本を読もうと思っていても座るとすぐ寝てしまうのでなかなか読めない日々が続いております。実は昼休みに10分くらい読むほうが捗るしリフレッシュになる感じがしてます。

 

さて、今回紹介する本はこちらです。

 

 

作品名

『6TEEN』(著:石田衣良

6TEEN(新潮文庫)

 

感想

4TEEN』の続編で、2年後の16歳になった少年4人を書いた物語です。前作同様に彼らを取り巻くお話の短編集となっています。

 

個人的には前作より好きでした。たった2年ですが、大人の2年と14から16の2年は時間の流れが全然違います。この年頃の2年は大人の10年分くらいに相当します。直面する問題も14歳の頃よりもより複雑でより苦いものになっています。彼らは大人への階段を少しずつ登っているんだなあ、と読んでて感じ取ることができます。

 

彼らは2年経っても、違う高校に通い出しても、頻繁に集まっています。部活動とかしてないのか?とか疑問に思うこともありますが、そんな細かいとこは置いておきましょう。いつも集まる場所もあって、これは友だちと地元が同じであることの特権ですよね。地元が同じってほんと良いな。

 

彼らは2年経っても、相手がどんな体や心であっても受け入れる誠実さと世間一般の常識よりその人らしさやその人の選択を尊重する優しさを持っています。自分たちに心通じ合える仲間がいるからこそ、人の気持ちを大切にできるのでしょうね。私にはそんな深い友だちいなかったなあ、とか寂しい気持ちに、案外ならないんですよこれが。この感じは前作同様で、ただただ心が温かくなるんです。

 

親子関係の話があり、アラサーで子持ちで実母もまだ健在の私には効きました。親とは何年経っても同じ理由で喧嘩するんですよねえ。何十年も生きてきた人はそう簡単には変わらない。その何十年で蓄積された思い。味わい深いなあ。

 

石田衣良さんの素敵な才能である、心の琴線に触れる言葉もたくさんありました。

 

「天気がいいくらいじゃ、洗濯物みたいに十六歳の心は簡単にぱりっと乾いたりしないのだ。」

「やっぱり夏は素敵だし、ぼくたちの身体は誰かとつながって幸福になるようにつくられている。」

 

特に、クリーンルームにいる友だちに会いに行ったシーンのこの言葉。

厚いビニール越しの声は、携帯電話できくよりも遠くきこえた。

この言葉が表す病室の情景と心境は素晴らしいです。

 

このような美しい表現は読んでいて気持ちが良いです。頭に浮かぶ景色との親和性が絶妙です。

誰からともなく超高層マンションのエントランスをめざして、競争が始まった。スニーカーが夜の底を打つ音が、おかしな拍子であたりに響いた。

自分でそんなことをいっていて、空が落ちてくるのではないかと思った。その瞬間の夜空は果てしないほどの重量をもっているように見えたのだ。

 

あと、やはり彼らも大人の世界に一歩踏み出す前の大事な時期ということもあり、将来への漠然とした不安があります。そんな不安を少し軽くしてくれるホームレスのおじさんの言葉。大人の私の心にも残りました。そのおじさんは社会とうまく距離を取ることが賢い生き方だと教えてくれます。のめり込み過ぎず手をかけれる心地よい距離で働ける仕事。家族や友人と心地よく干渉し合える距離や場所。なにごとも距離感は大事でその心地よい距離感をうまく見つけられるのが賢い大人なんでしょうね。私もまだまだなところがあるので気をつけたいものです。

 

かたかな評価

★★★★★(星5)

前作同様、彼らの純粋さは健在です。4TEENがとても秀作なので本作は少し物足りないと思う方もいるかもしれませんし、各エピソードがきれいにオチているわけでもないですが、それこそ酸いも甘いも全部抱えてちょっともやもやした感情を誤魔化して生きている大人のようなものです。

 

16歳とかじゃなくて、2倍生きてる32歳とかの大人におすすめの本です。

 

ほな。